Translate

2010年8月13日金曜日

忘れられない二つの言葉

一年間で最も過ごしやすく気持ち良い日を五日あげろ、と問われればおそらくたいていの人がゴールデンウィーク前後の日を選ぶことに疑問の余地は無いだろう。
僕もそのまぶしいばかりの新緑の季節には必ず山歩きをする。
春の山菜をとったり真紅のヤブツバキを楽しんだり、ウグイスの鳴き声に耳を澄ませ、
こぶしの花の匂いをかげば少年時代がよみがえってくる。

小さな山村に嫁いできた母はそれまで経験したことのない田畑の仕事にかなり苦労したのではないかと思われる。その母がよく 『五月陽気に子三人』 鯉のぼりが五月の風になびくころによく口にした。

きっと五月晴れの素晴らしい陽気の日に幼子を3人つれての田植えの昼時、田のあぜに座り皆でおにぎりなんかをほおばり、その当時はタニシやドジョウもたくさんいただろう。
傍らの石ころにシオカラトンボが羽を休めていたり。
そして身体全体をつつみわたる風は薫り、三人のかわいい子供たちを眺めながら
母は日頃の苦労も忘れ、ただただ純粋に生きている幸せを感じたのではないかと思う。
他にはなにもいらない、今この時があれば・・・。

もう一つは、『前途洋々』 当時僕は事業を営んでいてある時期大きく飛躍した際に
母からの祝儀袋に書かれていた文字である。
その言葉は、僕の目の前に本当にはてしなく大きな海が広がっているような気持ちにさせてくれたし、
自分の前途が限りない可能性に満ちているようにも思えた。
この”前途洋々”を僕にはなむけとして贈ってくれた母を粋に感じた。

その母もこの6月28日早朝、とても穏やかにそして静かに旅立った。